不動産売却の譲渡所得税は、売却益(利益)に対してかかる税金です。一般に譲渡所得税と呼ばれますが、実際には所得税、復興特別所得税、住民税の3種類の税金を合算して考えます。
ややこしいのは、売却価格そのものに税金がかかるわけではない点です。購入にかかった費用や売却時の費用を差し引き、残った利益に税率をかけて計算します。さらに、マイホームの売却では3,000万円特別控除などを使える場合があり、同じ売却価格でも税額が大きく変わります。
不動産売却で譲渡所得税がかかる仕組み、計算方法、使える控除や特例、確定申告の流れを整理します。
不動産売却で譲渡所得税がかかる仕組み
不動産を売却して利益が出た場合、その利益は譲渡所得として扱われます。譲渡所得税は、この譲渡所得に対してかかる税金です。
対象になる不動産には、土地、戸建て、マンション、投資用不動産、アパート、駐車場、借地権などがあります。自宅だけでなく、相続した土地や収益物件を売った場合にも、利益が出れば課税対象になる可能性があります。
譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。
譲渡所得=売却価格−取得費−譲渡費用
たとえば、3,000万円で購入した不動産を5,000万円で売ったとしても、差額の2,000万円すべてに税金がかかるわけではありません。購入時の仲介手数料や登記費用、売却時の仲介手数料などを差し引いた後の金額が、課税のもとになります。
建物は年数の経過によって価値が減るため、取得費を計算するときに減価償却費を差し引きます。購入時の金額をそのまま取得費にできるわけではない点に注意が必要です。
所有期間で譲渡所得税の税率は変わる
不動産売却の税率は、所有期間によって変わります。判定するのは売却日ではなく、売却した年の1月1日時点の所有期間です。
| 区分 | 所有期間 | 税率 |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315% |
短期譲渡所得の税率は、所得税30%、復興特別所得税0.63%、住民税9%を合わせた39.63%です。長期譲渡所得は、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%を合わせた20.315%になります。
たとえば、2020年6月に購入した不動産を2025年7月に売却した場合、実際の保有期間は5年を超えています。しかし、2025年1月1日時点では所有期間が5年以下のため、短期譲渡所得として扱われます。
売却時期が数か月違うだけで税率が変わることもあります。売却を急がない場合は、所有期間の判定日を確認してから進めましょう。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税は、次の流れで計算します。
譲渡所得=売却価格−取得費−譲渡費用
税額=課税譲渡所得×税率
特例を使う場合は、譲渡所得から特別控除額を差し引いた後の金額に税率をかけます。
課税譲渡所得=売却価格−取得費−譲渡費用−特別控除額
取得費に含まれるもの
取得費は、不動産を取得するためにかかった費用です。主なものは次の通りです。
| 費用 | 内容 |
| 購入代金 | 土地や建物の購入価格 |
| 建築費 | 建物を建てた費用 |
| 購入時の仲介手数料 | 不動産会社へ支払った手数料 |
| 登記費用 | 所有権移転登記などの費用 |
| 不動産取得税 | 取得時にかかった税金 |
| 印紙税 | 購入時の契約書に貼った印紙代 |
| 設備費、改良費 | 資産価値を高める工事費用 |
修繕費のすべてが取得費になるわけではありません。通常の維持管理や原状回復に近い費用は、取得費に含められないことがあります。
購入時の契約書や領収書がない場合、取得費を証明できないことがあります。その場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算できますが、実際の購入価格より低くなると税額が増えやすくなります。
譲渡費用に含まれるもの
譲渡費用は、不動産を売却するために直接かかった費用です。
| 費用 | 内容 |
| 売却時の仲介手数料 | 不動産会社へ支払う成功報酬 |
| 印紙税 | 売買契約書に貼る印紙代 |
| 測量費 | 土地の境界確認などにかかる費用 |
| 解体費用 | 建物を取り壊して土地を売る場合の費用 |
| 立退料 | 借家人などに退去してもらうための費用 |
| 売却のための広告費 | 売却に直接必要な広告費 |
住宅ローンの繰上返済手数料や引っ越し費用は、原則として譲渡費用には含めません。何を費用にできるかで課税額が変わるため、領収書は残しておきましょう。
譲渡所得税の計算例
次の条件で計算します。
| 項目 | 金額 |
| 売却価格 | 5,000万円 |
| 取得費 | 3,200万円 |
| 譲渡費用 | 300万円 |
譲渡所得は1,500万円です。
5,000万円−3,200万円−300万円=1,500万円
長期譲渡所得の場合、税額は約304万円です。
1,500万円×20.315%=304万7,250円
短期譲渡所得の場合、税額は約594万円になります。
1,500万円×39.63%=594万4,500円
同じ売却益でも、所有期間によって税額は大きく変わります。売却価格だけでなく、いつ売るかも資金計画に入れておきたいところです。
譲渡所得税以外にかかる税金
不動産売却では、譲渡所得税以外にも税金や関連費用が発生します。
印紙税
不動産売買契約書を作成するときにかかる税金です。契約金額によって税額が変わります。
たとえば、売買価格が1,000万円超から5,000万円以下の場合、軽減措置の適用後の印紙税は1万円です。紙の契約書を売主と買主が1通ずつ保管する場合、それぞれが自分の契約書分を負担するのが一般的です。
登録免許税
住宅ローンが残っている不動産を売却する場合、引き渡しまでにローンを完済し、抵当権を抹消します。この抵当権抹消登記に登録免許税がかかります。
登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。土地と建物を売る戸建てでは、土地1筆と建物1個で2,000円かかるケースがあります。
住民税
譲渡所得に対する住民税は、所得税とあわせて考える必要があります。長期譲渡所得では5%、短期譲渡所得では9%です。
住民税は売却した翌年に課税されるため、売却代金を使い切らないように注意しましょう。
復興特別所得税
復興特別所得税は、所得税額に対して2.1%かかります。長期譲渡所得の20.315%、短期譲渡所得の39.63%という税率には、この復興特別所得税も含まれています。
消費税
個人が自宅を売却する場合、建物部分に消費税はかかりません。土地の売却も消費税の対象外です。
ただし、事業用不動産や法人による売却では、建物部分に消費税がかかる場合があります。不動産会社へ支払う仲介手数料には消費税がかかります。
譲渡所得税を抑えられる5つの控除と特例
不動産売却では、条件を満たすと税負担を抑えられる制度があります。自動で適用されるわけではないため、使う場合は確定申告が必要です。
3,000万円特別控除
マイホームを売却した場合、一定の条件を満たすと、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。所有期間の長短は問われません。
たとえば譲渡所得が2,500万円なら、控除後の課税譲渡所得は0円になります。譲渡所得が4,000万円なら、1,000万円が課税対象です。
主な条件は次の通りです。
| 条件 | 内容 |
| 居住用財産である | 自分が住んでいた家であること |
| 売却期限 | 住まなくなった日から3年を経過する年の12月31日までに売ること |
| 売却相手 | 親子や夫婦など特別な関係の人への売却ではないこと |
| 過去の利用状況 | 一定期間内に同じ特例を使っていないこと |
住宅ローン控除との併用には制限があります。住み替えで新居を購入する場合は、どちらを使うか事前に確認しておきましょう。
10年超所有軽減税率の特例
売却した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えるマイホームでは、一定の条件を満たすと軽減税率の特例を使える場合があります。
3,000万円特別控除を差し引いた後の課税長期譲渡所得について、6,000万円以下の部分は所得税10%、住民税4%で計算します。復興特別所得税は別途かかります。
3,000万円特別控除と併用できる場合があるため、長く住んだマイホームで売却益が大きいときは確認しておきたい制度です。
特定のマイホームの買換え特例
マイホームを売却して新しいマイホームへ買い換える場合、一定の条件を満たすと、譲渡益への課税を将来に繰り延べられることがあります。
この制度は税金が免除されるものではありません。買い換えた住宅を将来売却するときまで、課税を先送りする仕組みです。
売却した年の税負担を抑えたい場合には有効ですが、将来の税金まで消えるわけではないため、3,000万円特別控除とどちらがよいか比較して判断する必要があります。
相続空き家の3,000万円特別控除
相続または遺贈で取得した被相続人の居住用家屋やその敷地を売却した場合、一定の条件を満たすと、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できることがあります。
対象になる期間は、現行制度では令和9年12月31日までの売却です。相続人が3人以上の場合は、控除額が2,000万円になるケースがあります。
この特例は、建物の状態、建築時期、相続後の利用状況、売却価格などの条件が細かく定められています。相続した空き家を売る場合は、売却前に適用できるか確認しておきましょう。
取得費加算の特例
相続した不動産を一定期間内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できることがあります。取得費が増えると譲渡所得が減り、結果として譲渡所得税を抑えられます。
主な条件は、相続または遺贈で取得した財産であること、その人に相続税が課税されていること、相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却していることです。
相続不動産では、3,000万円特別控除や空き家特例との関係も確認が必要です。制度の選び方で税額が変わるため、早めに税理士や税務署へ相談しましょう。
譲渡所得税の確定申告
不動産を売却して譲渡所得が出た場合は、原則として確定申告が必要です。会社員で普段は年末調整だけで済んでいる人も、不動産売却で利益が出れば申告の対象になります。
また、3,000万円特別控除や軽減税率の特例、買換え特例、譲渡損失の損益通算や繰越控除などを使う場合は、税額がゼロでも確定申告が必要です。
確定申告の期間は、売却した年の翌年2月16日から3月15日までです。申告期限が土日祝日にあたる場合は、翌平日になることがあります。
必要書類
主な必要書類は次の通りです。
| 書類 | 用途 |
| 売却時の売買契約書 | 売却価格の確認 |
| 購入時の売買契約書 | 取得費の確認 |
| 仲介手数料などの領収書 | 取得費や譲渡費用の確認 |
| 登記事項証明書 | 不動産情報の確認 |
| 譲渡所得の内訳書 | 譲渡所得の計算 |
| 本人確認書類 | 申告手続き |
| 特例ごとの添付書類 | 控除や特例の適用確認 |
控除や特例を使う場合は、制度ごとに追加書類が必要です。書類が足りないと申告が進まないことがあるため、売却後にまとめるのではなく、購入時と売却時の資料を早めに確認しておきましょう。
e-Taxでの申告
国税庁の確定申告書等作成コーナーを使えば、土地や建物の譲渡所得も入力できます。画面の案内に沿って金額を入れると、譲渡所得の内訳書や申告書を作成できます。
税務署へ行く時間を取りにくい人は、e-Taxでの申告も選択肢になります。
申告しない場合のリスク
本来申告が必要なのに申告しなかった場合、無申告加算税や延滞税がかかる可能性があります。意図的に所得を隠したと判断されると、重加算税の対象になることもあります。
特例を使えば税金がかからない場合でも、申告しなければ適用を受けられません。利益が出ていないと思っていても、取得費の計算によって課税対象になることがあります。不安がある場合は、税務署や税理士に確認しておきましょう。
不動産売却の譲渡所得税は売却前から確認する
不動産売却の譲渡所得税は、売却価格、取得費、譲渡費用、所有期間、使える特例によって大きく変わります。特に所有期間が5年を超えるかどうか、マイホームの3,000万円特別控除を使えるかどうかは、税額に直結します。
購入時の契約書や領収書が残っていないと、取得費を十分に証明できず、税負担が増えることがあります。売却を考え始めたら、まずは購入時と売却時に関係する資料を整理し、譲渡所得が出るかを確認しておきましょう。
税金の見通しが立っていれば、売却価格や住み替え資金の判断もしやすくなります。大切な不動産を納得して売るためにも、査定額だけでなく、売却後に手元へ残る金額まで見て進めることが大切です。
参考にした公的情報
国税庁 長期譲渡所得の税額の計算
国税庁 短期譲渡所得の税額の計算
国税庁 マイホームを売ったときの特例
国税庁 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
国税庁 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
