不動産を売却した結果、利益ではなく損失が出ることがあります。売却価格が購入時より低かった場合や、売却にかかった費用を含めると赤字になるケースは珍しくありません。
そのようなときに知っておきたい制度が損益通算です。
損益通算を利用できれば、不動産売却で生じた損失を一定の条件のもとで他の所得と相殺でき、所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があります。ただし、すべての売却損が対象になるわけではなく、適用には要件があります。
制度を知らないまま確定申告を終えてしまうと、本来受けられる税制上の優遇を逃してしまうこともあるため、事前に内容を理解しておくことが大切です。
この記事では、不動産売却における損益通算の仕組みや対象となるケース、利用する際の注意点まで分かりやすく紹介します。
不動産売却の損益通算とは
損益通算とは、不動産を売却して生じた損失を、一定の条件を満たした場合に他の所得と相殺できる制度です。
通常、不動産を売却したときの利益や損失は譲渡所得として計算されます。利益が出れば譲渡所得税の対象になりますが、損失が出たからといって、すべて他の所得と相殺できるわけではありません。
不動産の譲渡損失は、原則として給与所得や事業所得などとの損益通算は認められていません。
しかし、マイホームの売却など一定の条件を満たす場合には特例が設けられており、給与所得などと損益通算ができるケースがあります。そのため、不動産売却で赤字になった場合でも、制度の対象になるかどうかを確認することが重要です。
不動産売却で損益通算が認められるケース
損益通算は、どのような不動産でも利用できる制度ではありません。利用できる代表的なケースを見ていきましょう。
マイホームを住宅ローンが残った状態で売却した場合
代表的なのが、自宅を売却した際に譲渡損失が発生したケースです。
売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていることや、住宅ローンが一定額以上残っていることなど、特例の要件を満たすと損益通算の対象になります。
例えば、転勤や住み替えによって住宅を売却したものの、売却価格が住宅ローン残高を下回り、損失が生じることがあり、特例が適用されれば、給与所得などと損益通算でき、税負担を抑えられる可能性があります。
マイホームを買い替えて損失が出た場合
住み替えを目的に自宅を売却し、新たな住宅を購入した場合も、一定の条件を満たせば特例を利用できます。
買い替えに伴う譲渡損失の特例では、新居の取得や住宅ローンなどについても要件が設けられており、住み替えでは、売却価格より購入時の価格のほうが高く、譲渡損失が発生することも少なくありません。対象となれば、損失を他の所得と相殺できるため、住み替えに伴う税負担を軽減できる可能性があります。
損益通算できない不動産売却もある
損益通算は便利な制度ですが、対象外となるケースも多くあります。
投資用不動産の売却損
投資用不動産の譲渡損失は譲渡所得として扱われますが、マイホームのような特例は適用されないため、賃貸マンションやアパートなど、投資目的で所有していた不動産を売却して損失が出ても、原則として給与所得との損益通算はできません。
不動産投資では、損失が出た場合でも税金が必ず軽減されるわけではないことを理解しておきましょう。
別荘やセカンドハウスの売却
生活の拠点ではない別荘やセカンドハウスも、損益通算の特例の対象にはなりません。
制度は居住用財産を対象としているため、実際に生活していない住宅は対象外となります。
自宅だと思っていても、税法上の居住用財産に該当しなければ特例は利用できないため注意が必要です。
| 売却した不動産 | 損益通算の可能性 | 主な条件 |
| マイホーム | ○ | 所有期間や住宅ローンなど一定条件を満たす必要あり |
| 住み替えによる自宅売却 | ○ | 新居購入や住宅ローンなどの条件あり |
| 投資用マンション | ×(原則不可) | 投資目的の不動産は対象外 |
| アパート・賃貸物件 | ×(原則不可) | 譲渡損失と給与所得などの通算不可 |
| 別荘・セカンドハウス | × | 居住用財産に該当しない |
損益通算を利用するための条件
損益通算の特例には、いくつかの条件があり、条件を満たしていなければ適用されないため、売却前から確認しておくことが大切です。
| 条件 | 内容 |
| 不動産の種類 | 居住用財産であること |
| 所有期間 | 売却した年の1月1日時点で一定期間以上所有していること |
| 住宅ローン | 特例によっては一定額以上の住宅ローン残高が必要 |
| 売却相手 | 親族などへの売却は対象外になる場合がある |
| 手続き | 確定申告が必要 |
代表的な条件として、売却した不動産が居住用財産であること、所有期間が一定以上あること、住宅ローンの要件を満たしていることなどが挙げられます。
また、親族間での売買など、一定の取引については特例の対象外となる場合があります。
制度は複数の条件を満たして初めて利用できるため、自分のケースが対象になるか分からない場合は、不動産会社や税理士へ相談すると安心です。
損益通算を利用するには確定申告が必要
損益通算は自動で適用される制度ではなく、会社員で年末調整を受けている方でも、不動産売却で損益通算を利用する場合は確定申告が必要になります。
必要書類はケースによって異なりますが、売買契約書や登記事項を確認できる書類、譲渡所得の計算に必要な資料などを提出します。
確定申告を行わなければ特例を受けられないため、期限内に手続きを済ませることが重要です。書類の準備には時間がかかることもあるため、売却後は早めに必要書類を確認しておくと手続きがスムーズになります。
損益通算後も控除を受けられる場合がある
損益通算を行っても、その年の所得だけでは損失を控除しきれないことがあります。
一定の特例では、控除しきれなかった損失を翌年以降へ繰り越して控除できる制度が設けられており、これを繰越控除といいます。要件を満たして毎年確定申告を続ければ、一定期間にわたって所得から控除を受けられる可能性があり、
例えば売却損が大きく、その年の給与所得だけでは相殺しきれない場合でも、翌年以降の所得から順次控除を受けることが可能です。税負担の軽減効果を十分に受けるためには、損益通算だけでなく繰越控除の対象になるかどうかも確認しておくとよいでしょう。
損益通算を検討するときの注意点
損益通算の制度は、利用できれば税負担を抑えられる可能性がありますが、条件を正しく理解しておくことが欠かせません。売却損が出たという理由だけで制度を利用できるわけではなく、居住用財産であることや所有期間、住宅ローンなど、複数の要件を満たす必要があります。
また、不動産売却では税金だけでなく、仲介手数料や登記費用なども含めて資金計画を考えることが大切です。売却時期や住み替えのタイミングによっても、手元に残る金額は変わります。税制の特例は適用要件が細かく定められているため、自分で判断するのが難しい場合は、売却を依頼する不動産会社や税理士へ早めに相談しておくと安心です。
まとめ
不動産売却の損益通算は、売却損を一定の条件のもとで他の所得と相殺できる制度です。
特にマイホームの売却や住み替えでは利用できる可能性がありますが、投資用不動産や別荘などは原則として対象になりません。
制度を利用するには条件を満たすことに加え、確定申告も必要です。さらに、損益通算だけで控除しきれない場合は、繰越控除を利用できるケースもあります。
不動産売却では、売却価格だけでなく税金も最終的な手取り額に大きく影響します。損益通算の対象になる可能性がある場合は、売却前から制度を確認し、必要に応じて専門家へ相談しながら進めることが大切です。
