相続した実家について、使う予定がないまま所有を続けている人は少なくありません。遠方に住んでいて管理が難しかったり、売却を考えていても税金が気になって判断できなかったりするケースもあります。
そのような相続空き家の売却で知っておきたい制度が、空き家3,000万円控除です。一定の条件を満たした空き家を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度で、売却時の税負担を軽減できる可能性があります。
近年は税制改正によって適用期限が延長され、要件も一部見直されました。以前より利用しやすくなった一方で、対象となる建物や売却期限など確認すべき条件もあります。制度の内容を理解したうえで売却を進めることが、納得できる取引につながります。
空き家3,000万円控除とは
空き家3,000万円控除の正式名称は、被相続人の居住用財産を売ったときの特例です。
相続した空き家を売却して譲渡所得が発生した場合、その金額から最大3,000万円を控除できる制度で、相続不動産の売却では利用を検討したい特例の一つです。
たとえば売却益が4,000万円だった場合、この特例を適用できれば課税対象となる譲渡所得は1,000万円になります。課税対象となる金額が減るため、譲渡所得税の負担も抑えられます。
売却価格がそのまま課税されるわけではありませんが、譲渡所得が大きいほど税負担も増えるため、この控除が利用できるかどうかは売却後の手取り額にも影響します。
なぜこの制度が設けられたのか
この制度が設けられた背景には、相続後に放置される空き家の増加があります。
相続した住宅を利用する予定がなくても、すぐに売却や活用が決まるとは限りません。そのまま管理されない状態が続くと、建物は老朽化し、倒壊の危険や防犯上の問題、景観の悪化につながることがあります。
空き家を市場へ流通させることで、こうした問題を減らすことを目的として設けられたのが、この特例です。税負担を軽減することで売却しやすい環境を整え、空き家の有効活用を促しています。
2027年末まで適用期限が延長
空き家3,000万円控除は恒久的な制度ではなく、適用期限が設けられています。
税制改正によって現在の適用期限は2027年12月31日まで延長されました。そのため、相続した空き家をすぐに売却できなかった場合でも、条件を満たしていれば制度を利用できる可能性があります。
ただし、期限が延長されたからといって、いつまでも利用できるわけではありません。売却時期によっては特例の対象外になることもあるため、制度を利用する予定がある場合は適用期限も確認しておきたいところです。
税制改正で変わったポイント
近年の税制改正では、実際の売却手続きに関わる部分が見直されました。
これまで課題となっていたのが、老人ホームへ入所した人が所有していた住宅の扱いです。
以前は、被相続人が亡くなる直前まで自宅に住んでいることが要件の一つとされていました。しかし、高齢化が進むなかで介護施設や老人ホームへ入所する人が増えたことから、制度も実情に合わせて見直されています。
現在は、要介護認定などを受けて老人ホームへ入所していた場合でも、自宅を一定の状態で維持していたなどの条件を満たせば、特例を利用できる可能性があります。施設へ入所したという理由だけで対象外になるわけではありません。
もう一つの大きな変更点が、耐震改修や解体のタイミングです。
以前は売却前に耐震改修や解体を済ませておく必要がありましたが、現在は一定の条件を満たせば、買主が譲渡後の期限までに耐震改修や解体を行う場合でも特例を利用できる可能性があります。
そのため、売主が売却前に工事費を負担しなければならないケースが減り、以前より売却を進めやすくなりました。
対象となる建物の条件
この特例は、すべての相続住宅に適用できる制度ではありません。
対象となるのは、原則として昭和56年5月31日以前に建築された建物です。また、マンションなどの区分所有建物は対象外となっています。
一戸建てであっても、条件を満たしていなければ適用を受けることはできません。売却を進める前に、自分の住宅が対象となるか確認しておく必要があります。
店舗兼住宅や事務所兼住宅についても注意が必要です。
建物のすべてが対象になるわけではなく、居住用として利用されていた部分が対象になります。たとえば一階を店舗、二階を住居として利用していた場合は、住居部分には適用できても店舗部分には適用できないことがあります。
建物の利用状況によって扱いが変わるため、判断が難しい場合は事前に確認したほうが安心です。
相続人が3人以上の場合は控除額が変わる
空き家3,000万円控除は、相続人の人数によって控除額が変わる場合があります。
通常は相続人1人あたり最大3,000万円まで控除を受けることができますが、相続人が3人以上いる場合は、1人あたりの控除額の上限が2,000万円になります。
相続した空き家を共有名義で所有している場合は、それぞれの控除額を事前に確認しておくことが大切です。売却後に控除額が想定と異なっていたことが分かると、資金計画にも影響するため、相続人全員で制度の内容を把握しておくと手続きを進めやすくなります。
売却には期限がある
この特例は、条件を満たしていればいつでも利用できる制度ではありません。
適用を受けるためには、相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。
相続後に空き家をそのまま所有し続けていると、気付かないうちに適用期限を過ぎてしまうこともあります。管理方法や活用方法が決まっていない場合でも、売却を視野に入れているのであれば、早めに今後の方針を検討しておくことが制度を活用するうえでも大切です。
耐震性の確認も必要
対象となる建物は旧耐震基準で建築されているものが多いため、耐震性についても確認しなければなりません。
売却時には耐震基準に適合させるか、建物を解体して更地として売却することが必要になる場合があります。
税制改正によって、一定の条件を満たせば買主が譲渡後に耐震改修や解体を行うケースにも対応できるようになりましたが、どのような方法で売却するかによって準備する内容は変わります。
耐震改修費や解体費が必要になることもあるため、売却価格だけを見るのではなく、売却までに必要となる費用も含めて計画を立てておくことが大切です。
なぜ今が売却チャンスと言われるのか
相続した空き家は、所有しているだけでも維持費が発生します。
固定資産税や火災保険のほか、敷地内の草木の管理や建物の修繕費など、利用していなくても負担は続きます。年月が経つほど建物の老朽化も進み、倒壊や近隣トラブルにつながる可能性もあります。
近年は空き家対策も強化されており、管理状態が悪い空き家への対応は以前より厳しくなっています。管理不全と判断された場合には、固定資産税の優遇措置へ影響する可能性もあります。
一方で、空き家3,000万円控除は2027年末まで適用期限が延長されており、制度を利用できる環境が整っています。維持費を払い続けながら空き家を保有するよりも、特例を活用しながら売却を検討する人が増えている背景には、このような事情があります。
売却時の注意点
空き家3,000万円控除を利用するためには、必要書類をそろえなければなりません。
被相続人の居住状況を確認する書類や相続関係を証明する書類、耐震性に関する書類などが必要になります。また、自治体が発行する被相続人居住用家屋等確認書も、手続きを進めるうえで必要となる書類の一つです。
売却直前になって書類を集め始めると、手続きに時間がかかることがあります。売却を検討し始めた段階で、必要書類を確認しておくと手続きを進めやすくなるでしょう。
制度の要件は細かく、個々の事情によって判断が変わることもあります。
老人ホームへ入所していたケースや共有で相続しているケース、店舗兼住宅や未登記建物、耐震要件が関係するケースでは、制度を適用できるか慎重な確認が必要です。
判断に迷う場合は、不動産会社だけでなく税理士や司法書士とも連携しながら進めることで、制度を活用しやすくなります。
相続空き家は早めの確認が重要
空き家3,000万円控除は、相続した不動産を売却する際の税負担を軽減できる制度です。現在は2027年末まで適用期限が延長され、老人ホームへの入所に関する要件の見直しや、売却後の耐震改修・解体への対応など、以前より利用しやすい内容へ見直されています。
その一方で、相続人の人数や建物の用途、耐震要件、売却期限など、確認しなければならない条件もあります。制度を利用できると思っていても、条件を満たしていなければ適用を受けることはできません。
空き家は時間の経過とともに老朽化が進み、維持費もかかり続けます。使う予定がないのであれば、放置するのではなく、まず現在の市場価値や特例の適用可否を確認しておくことが、納得できる売却につながります。早めに準備を始めることで、制度を活用しながら売却計画を立てやすくなるでしょう。
