不動産売却は、売り出し価格を決めて買主を待つだけでは終わりません。相場調査、不動産会社選び、媒介契約、内覧対応、売買契約、税金、引き渡しまで、判断する場面がいくつもあります。
準備が足りないまま進めると、相場より安く売ってしまったり、想定外の費用で手残りが減ったり、契約後に不具合をめぐって買主と揉めたりすることがあります。特に初めて売却する人ほど、不動産会社に任せきりにせず、売主として確認すべき点を押さえておくことが大切です。
不動産売却で後悔しないために、売却前、会社選び、販売活動、契約と引き渡しの流れに沿って15の注意点を整理します。
相場を自分で調べる
不動産売却で最初に確認したいのは、売却したい物件の相場です。
不動産会社の査定額は、会社ごとに差が出ます。なかには媒介契約を取りたいあまり、相場より高い査定額を出す会社もあります。高い査定額を信じて売り出しても、買主が見つからなければ値下げを繰り返すことになり、結果的に売却期間が長引くこともあるでしょう。
相場を調べるときは、売り出し中の価格だけでなく、実際に取引された価格を見ることが大切です。国土交通省の不動産情報ライブラリでは、不動産取引価格や成約価格の情報を確認できます。周辺エリア、築年数、広さ、駅距離、土地形状などが近い事例を見れば、おおよその価格帯をつかみやすくなります。
売却理由と期限を決めておく
売却理由によって、進め方は変わります。転勤で期限が決まっている売却と、相続した不動産を時間をかけて売るケースでは、価格設定も交渉の余地も同じではありません。
住み替えなら、新居の購入時期や住宅ローンの審査も関わります。相続や離婚に伴う売却では、共有者との合意や名義の確認が先に必要になることもあります。
不動産売却は、査定から引き渡しまで3か月から6か月ほどかかることがあります。物件の状態やエリアによっては、さらに時間がかかる場合もあります。いつまでに売りたいのか、最低いくら手元に残したいのかを決めてから動き出すと、判断がぶれにくくなります。
手取り額を事前に計算する
売却価格がそのまま手元に残るわけではありません。売却時には、仲介手数料や印紙税、抵当権抹消費用、司法書士報酬、引っ越し費用などがかかります。利益が出た場合は、譲渡所得税や住民税が発生することもあります。
確認しておきたい主な費用は次のとおりです。
| 費用 | 内容 |
| 仲介手数料 | 不動産会社へ支払う成功報酬 |
| 印紙税 | 売買契約書にかかる税金 |
| 抵当権抹消費用 | 住宅ローン完済後に抵当権を外す費用 |
| 司法書士報酬 | 登記手続きを依頼する場合の報酬 |
| 引っ越し費用 | 退去や住み替えにかかる費用 |
| 譲渡所得税・住民税 | 売却益が出た場合にかかる税金 |
住宅ローンが残っている場合は、売却代金で完済できるかも確認が必要です。売却価格ではなく、費用とローン残債を差し引いた後の手取り額で資金計画を立てましょう。
売却先行と購入先行の違いを理解する
住み替えでは、今の家を先に売る売却先行と、新居を先に買う購入先行のどちらで進めるかを決める必要があります。
売却先行は、売却代金が見えてから新居を探せるため、資金計画を立てやすい方法です。ただし、引き渡しまでに新居が決まらなければ、仮住まいが必要になることがあります。
購入先行は、気に入った新居を先に確保でき、引っ越しも進めやすい方法です。一方で、今の家が予定どおり売れないと、住宅ローンの負担が重なる可能性があります。
資金に余裕があるか、仮住まいを避けたいか、売却期限があるかによって選ぶべき進め方は変わります。
必要書類を早めに準備する
不動産売却では、査定時、媒介契約時、売買契約時、引き渡し時にさまざまな書類が必要になります。書類が不足していると、手続きが止まったり、買主への説明に時間がかかったりします。
準備しておきたい主な書類は次のとおりです。
| 書類 | 主な用途 |
| 登記識別情報または権利証 | 所有者確認、登記手続き |
| 固定資産税納税通知書 | 税額や精算金の確認 |
| 身分証明書 | 本人確認 |
| 建築確認済証、検査済証 | 建物の法的確認 |
| 間取り図、測量図 | 物件情報の確認 |
| 管理規約、使用細則 | マンション売却時の説明 |
| ローン残高証明書 | 住宅ローン残債の確認 |
古い戸建てでは、建築確認済証や検査済証が見つからないこともあります。紛失している場合は、不動産会社に早めに伝え、代わりに確認できる資料があるか相談しましょう。
不動産会社は1社だけで決めない
不動産売却では、依頼する会社によって結果が変わります。査定額、販売戦略、広告の出し方、担当者の動き方が違うため、最初から1社に絞るのは避けたいところです。
複数社に査定を依頼すれば、価格の妥当性や担当者の説明力を比較できます。一括査定サイトを使うと、複数の不動産会社にまとめて査定依頼ができるため、比較の手間を減らせます。
ただし、査定依頼の数を増やしすぎると対応に追われます。比較しやすい範囲で数社に絞り、査定額だけでなく、売却方針まで聞くようにしましょう。
査定額の高さだけで選ばない
高い査定額を出した会社が、必ず高く売ってくれるとは限りません。相場から離れた価格で売り出すと、買主から検討されにくくなり、売れ残り感が出ることがあります。
査定額を見るときは、金額そのものより根拠を確認します。近隣の成約事例、現在の競合物件、物件の強みと弱み、売り出し後の価格調整の考え方まで説明できる担当者なら、販売開始後の判断もしやすくなります。
根拠があいまいな高額査定には注意が必要です。売主にとって耳ざわりのよい金額でも、買主が納得しなければ売買は成立しません。
担当者の対応力を見る
不動産売却は、会社名だけでなく担当者の力にも左右されます。査定から引き渡しまで同じ担当者とやり取りすることが多いため、信頼して相談できるかを見ておきましょう。
確認したい点は次のとおりです。
| 確認項目 | 見るポイント |
| 連絡の早さ | 問い合わせや報告への反応が遅くないか |
| 説明の分かりやすさ | 専門用語をかみ砕いて話してくれるか |
| 販売戦略 | 誰に、どの媒体で、どう売るかが具体的か |
| 地域理解 | 周辺相場や買主層を把握しているか |
| 誠実さ | 不利な点やリスクも隠さず伝えるか |
囲い込みにも注意が必要です。囲い込みとは、売主から預かった物件情報を十分に公開せず、自社で買主も見つけようとする行為です。買主との接点が減ると、売却機会を逃すおそれがあります。
媒介契約の違いを理解する
不動産会社に売却を依頼するときは、媒介契約を結びます。媒介契約には、一般媒介、専任媒介、専属専任媒介があります。
| 種類 | 特徴 |
| 一般媒介契約 | 複数社に依頼できる。自分で見つけた買主とも取引できる |
| 専任媒介契約 | 依頼できるのは1社のみ。自分で見つけた買主とは取引できる |
| 専属専任媒介契約 | 依頼できるのは1社のみ。自分で見つけた買主でも不動産会社を通す必要がある |
専任媒介契約と専属専任媒介契約では、不動産会社にレインズへの登録や売主への業務報告が義務づけられています。自由度を重視するなら一般媒介、1社にしっかり動いてもらいたいなら専任媒介を検討するなど、物件の状況に合わせて選びましょう。
内覧前に室内を整える
内覧は、買主が購入を決める大きなきっかけになります。写真で興味を持っても、実際に見た印象が悪ければ検討から外れることがあります。
特に見られやすい場所は、玄関、リビング、キッチン、浴室、トイレです。水回りの汚れやにおい、暗い室内、物の多さは印象を下げます。換気をして、照明をつけ、不要な荷物はできるだけ片付けておきましょう。
大がかりなリフォームまで必要とは限りません。買主が入居後の暮らしを想像しやすい状態に整えることが大切です。
価格交渉を想定しておく
不動産売買では、買主から値下げ交渉が入ることがあります。最初からぎりぎりの希望価格で売り出すと、交渉に応じる余地がなくなります。
売り出し価格を決めるときは、相場、売却期限、住宅ローン残債、最低限残したい金額を踏まえ、どこまでなら譲れるかを決めておきましょう。
ただし、値引き前提で高く設定しすぎると、そもそも問い合わせが入らないことがあります。相場から大きく外れない範囲で、交渉余地を持たせるのが現実的です。
住みながら売るときは生活感を抑える
居住中でも不動産売却はできます。ただし、生活感が強すぎると、買主は部屋の広さや使い方を想像しにくくなります。
内覧前に気をつけたいのは、洗濯物、出しっぱなしの荷物、ペットやたばこのにおい、玄関まわりの靴、キッチンや洗面所の水あかです。収納の中を見たいと言われることもあるため、見える場所だけでなく収納内も軽く整えておくと安心です。
住んでいる家を完全なモデルルームにする必要はありません。買主が気持ちよく見られる状態をつくるだけで、印象は変わります。
契約不適合責任を理解する
売買契約後に不具合が見つかった場合、売主が責任を負うことがあります。以前は瑕疵担保責任と呼ばれていましたが、現在は契約不適合責任として扱われています。
たとえば、契約内容に含まれていない雨漏り、シロアリ被害、給排水設備の不具合などが引き渡し後に発覚すると、修補、代金減額、損害賠償、契約解除などの問題につながることがあります。
責任を負う範囲や期間は、契約内容によって変わります。売買契約書を読むときは、価格や引き渡し日だけでなく、契約不適合責任の条項も必ず確認しましょう。
付帯設備表と物件状況報告書を正確に書く
売却時には、設備の状態や建物の状況を買主へ伝えるために、付帯設備表や物件状況報告書を作成します。
記載する主な内容は次のとおりです。
| 書類 | 記載する内容 |
| 付帯設備表 | エアコン、給湯器、照明、キッチン設備などの有無や故障状況 |
| 物件状況報告書 | 雨漏り、シロアリ被害、修繕履歴、近隣トラブルなど |
不具合を隠して売却すると、引き渡し後のトラブルにつながります。売主にとって不利に見える内容でも、事前に伝えて契約に反映しておけば、後から揉めるリスクを減らせます。
分からないことを無理に断定する必要はありません。把握している範囲で、正確に記載しましょう。
手付金とローン特約を確認する
売買契約では、手付金とローン特約の内容を確認します。
手付金は、契約時に買主から売主へ支払われるお金です。手付解除の期限内であれば、買主は手付金を放棄し、売主は手付金の倍額を支払うことで契約を解除できる場合があります。
ローン特約は、買主の住宅ローン審査が通らなかった場合に、契約を白紙解除できる取り決めです。特約の期限や金融機関名、借入予定額があいまいだと、契約後にトラブルになることがあります。
手付金の金額、解除期限、ローン特約の期限、引き渡し日までの流れは、契約前に確認しておきましょう。
不動産売却は知っているかどうかで結果が変わる
不動産売却で後悔しやすいのは、相場を知らないまま価格を決めたとき、査定額だけで不動産会社を選んだとき、契約内容や税金を十分に確認しないまま進めたときです。
売主が確認すべきことは多くありますが、最初に押さえたいのは次の3つです。
- 相場:成約価格を見て、査定額の妥当性を判断する
- 不動産会社:複数社を比較し、査定額の根拠と販売戦略を聞く
- 手取額:費用、税金、住宅ローン残債を差し引いて考える
不動産売却は、事前準備の差がそのまま結果に出やすい取引です。相場、費用、不動産会社、契約内容を一つずつ確認しておけば、焦って判断する場面を減らせます。大切な資産を納得して手放すためにも、売却を始める前に今回の注意点を見直し、自分の状況に合う進め方を選びましょう。
