マイホームを売却して利益が出ると、その利益に所得税や住民税がかかります。購入したときより高く売れた場合だけでなく、取得費が分からない、古い建物の減価償却を差し引くと取得費が小さくなる、といった理由で譲渡所得が出ることもあります。
そこで確認しておきたいのが、居住用財産を売ったときに使える3000万円特別控除です。条件を満たせば、譲渡所得から最高3000万円を差し引けます。売却益が3000万円以内に収まるなら、課税される譲渡所得がゼロになる可能性があります。
ただし、マイホームなら必ず使える制度ではありません。住んでいた事実、売却の相手、過去に使った特例、住み替え先で住宅ローン控除を受けるかどうかによって判断が変わります。売却価格だけを見て安心せず、売却前の段階で要件を一つずつ確認しておくと、手取り額の見込みを立てやすくなります。
3000万円特別控除とはどのような制度か
3000万円特別控除は、自分が住んでいた家やその敷地を売ったとき、譲渡所得から最高3000万円を控除できる特例です。国税庁では、居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例として案内されています。
この制度の大きな特徴は、所有期間の長さを問わないことです。土地や建物の譲渡所得は、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかによって長期譲渡所得と短期譲渡所得に分かれますが、3000万円特別控除そのものは所有期間だけで対象外になる制度ではありません。
譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。取得費には購入代金や建築代金、購入時の仲介手数料、設備費や改良費などが含まれます。建物は所有期間中の減価償却費相当額を差し引くため、購入時の金額をそのまま使えるわけではありません。譲渡費用には、売却時の仲介手数料、測量費、売買契約書に貼る印紙代、土地として売るための建物取壊し費用などが入ります。
たとえば5000万円で売れた家でも、5000万円すべてに税金がかかるわけではありません。買ったときや建てたときにかかった費用、売るためにかかった仲介手数料などを差し引き、残った利益をもとに税金を計算します。
| 項目 | 金額 | 内容 |
|---|---|---|
| 売却価格 | 5000万円 | 買主へ売った金額 |
| 取得費 | 2000万円 | 購入代金や建築代金など |
| 譲渡費用 | 300万円 | 仲介手数料や印紙代など |
| 譲渡所得 | 2700万円 | 税金の計算で利益として見る金額 |
計算式にすると、次のようになります。
5000万円-2000万円-300万円=2700万円
ここから3000万円特別控除を差し引けるため、この例では課税対象が残りません。
2700万円-3000万円=0円
売却益がさらに大きく、譲渡所得が4000万円になった場合でも、3000万円を差し引いた1000万円だけが課税対象です。売却価格そのものではなく、売却で出た利益から控除を引いた残りに税金がかかる、と考えると分かりやすいでしょう。
3,000万円特別控除を使える主な条件
対象になるのは、現に自分が住んでいる家屋、または以前住んでいた家屋です。以前住んでいた家の場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があります。単純に退去日から3年以内と考えると、期限の見方を誤ることがあるため注意が必要です。
家屋と一緒に売る敷地や借地権も対象になります。家を取り壊して土地だけを売る場合でも、一定の条件を満たせば特例を受けられます。ただし、取壊しから1年以内に売買契約を結び、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが必要です。さらに、取壊し後から売買契約を結ぶまでの間、その土地を貸駐車場など別の用途に使っていると対象外になります。
主な確認項目は次のとおりです。
- 自分が住んでいる、または以前住んでいた家屋である
- 以前住んでいた家は、定められた期限までに売却する
- 親子、夫婦、生計を一にする親族、内縁関係の人など特別な関係にある相手へ売っていない
- 売った年の前年と前々年に、同じ特例やマイホームの譲渡損失に関する特例を使っていない
- 売った年、その前年、前々年にマイホームの買換えや交換の特例を使っていない
- 収用等の場合の特別控除など、同じ不動産について別の特例を重ねて使っていない
- 確定申告を行う
住民票を置いていたかどうかは判断材料の一つですが、それだけで居住実態が認められるとは限りません。生活の本拠として使っていたか、電気や水道の使用状況、郵便物、家族の生活状況などから確認されることがあります。
反対に、特例を受ける目的だけで一時的に入居した家、建て替え中の仮住まいとして使った家、別荘のように保養や趣味のために持っていた家は対象になりません。投資用マンションや賃貸用物件も、自分の居住用財産ではないため、この特例の対象から外れます。
3000万円特別控除を使うメリット
この特例を使う一番の利点は、売却後に手元へ残るお金を読みやすくなることです。譲渡所得が3000万円以内なら、控除後の課税譲渡所得はゼロになります。住み替え資金、住宅ローンの返済、相続人同士の分配などを考えると、税金がいくら残るかは売却計画そのものに関わります。
古くから持っている土地や家では、購入当時の契約書が残っていないこともあります。取得費が分からない場合、概算取得費として売却価格の5パーセントを使うことがあり、譲渡所得が大きく出やすくなります。こうしたケースでは、3000万円特別控除が手取り額に与える影響も大きくなります。
また、所有期間を問わず使えるため、急な転勤や離婚、介護、相続後の住み替えなど、長く持ち続ける前に売却する場面でも検討できます。もちろん要件を満たすことが前提ですが、短期所有だから最初から使えないと決めつける必要はありません。
3000万円特別控除を使うときの注意点
住み替えで新しい家を買う場合は、住宅ローン控除との関係を必ず確認してください。マイホームを売った年、またはその前後の一定期間に3000万円特別控除を使うと、新居の住宅ローン控除を受けられないことがあります。
売却益が大きい場合は3000万円特別控除を使ったほうが有利に見えますが、新居の住宅ローン控除を長く受けたほうが結果的に負担を抑えられることもあります。どちらを選ぶかは、売却益、新居の借入額、入居時期、所得税と住民税の見込みで変わります。住み替えを同時に進めるなら、売買契約を結ぶ前に比較しておくほうが安全です。
過去に同じ特例を使っている場合も注意が必要です。売った年の前年と前々年にこの特例を使っていると、原則として再び使うことはできません。複数の不動産を順番に売る予定があるなら、どの物件で使うかによって税額が変わります。
もう一つ見落としやすいのが、確定申告です。控除を使えば税金が出ない場合でも、自動で適用されるわけではありません。必要書類を添えて確定申告を行って初めて特例を受けられます。
申請の流れと必要書類
3000万円特別控除は、売却した翌年の確定申告で手続きします。所得税の確定申告は、原則として翌年2月16日から3月15日までの間に行います。土日などの関係で期限が動く年もあるため、実際の申告年の案内は国税庁や税務署で確認しておきましょう。
確定申告では、譲渡所得の内訳書を作成し、売却価格、取得費、譲渡費用、特別控除額を記入します。国税庁の確定申告書等作成コーナーを使うと、画面の案内に沿って入力しながら必要な付表や明細書を作成できます。e-Taxで送信する方法のほか、印刷して税務署へ提出する方法もあります。
準備しておきたい書類は次のとおりです。
- 譲渡所得の内訳書
- 売却時の売買契約書
- 購入時の売買契約書や建築請負契約書
- 仲介手数料、測量費、印紙代、取壊し費用などの領収書
- 登記事項証明書
- 住民票の住所と売却した家の所在地が異なる場合、居住していたことを示す戸籍の附票など
取得時の契約書や領収書が見つからないと、取得費の計算が不利になることがあります。売却を考え始めたら、まず購入時と売却時の書類を集め、足りないものを早めに確認しておくと申告時に慌てずに済みます。
共有名義で売却する場合
夫婦や親子の共有名義になっているマイホームを売る場合、3000万円特別控除は所有者ごとに判断します。それぞれが持分を持ち、それぞれ居住用財産としての要件を満たしていれば、各人が特例を受けられる可能性があります。
ただし、共有者のうち実際に住んでいた人と住んでいなかった人がいる場合は、同じように扱えるとは限りません。単に登記上の持分があるだけではなく、その人にとって居住用財産といえるかが見られます。離婚や相続をきっかけに共有状態を解消する売却では、持分、居住実態、売却代金の受け取り方を整理してから申告へ進む必要があります。
相続した空き家を売る場合
相続した不動産を売るときは、自分が住んでいたマイホームの3000万円特別控除とは別に、被相続人の居住用財産に関する特例を検討することがあります。これは、相続または遺贈で取得した一定の空き家やその敷地を売った場合に、譲渡所得から最高3000万円を控除できる制度です。
対象になる家屋には、昭和56年5月31日以前に建築されたこと、区分所有建物登記がされていないこと、相続開始の直前に被相続人以外が住んでいなかったことなどの要件があります。令和6年1月1日以後の譲渡では、相続人の数が3人以上の場合、控除額が最高2000万円になる点も押さえておきたいところです。
相続後に賃貸へ出したり、事業用に使ったり、別の人が住んだりすると、空き家特例の対象から外れることがあります。耐震基準を満たす必要があるケースや、取壊しを行うケース、市区町村が発行する確認書が必要になるケースもあります。相続した家を売る場合は、通常のマイホーム売却とは別の制度として要件を確認してください。
売却前に確認しておきたいこと
3000万円特別控除は、売却後に思い出しても間に合う場合はありますが、売却前に確認したほうが選べる対応は増えます。特に、家を取り壊して土地として売る場合、住み替えで新居の住宅ローン控除を受けたい場合、共有名義や相続が絡む場合は、後から条件を整えにくくなります。
確認する順番は、まずその不動産が居住用財産に当たるか、次に売却期限や売却相手に問題がないか、最後に他の特例や住宅ローン控除との関係を見る流れが分かりやすいでしょう。あわせて、購入時の契約書、領収書、登記関係の書類をそろえ、譲渡所得がどれくらい出るかを試算しておきます。
税金がかからないと思って売却を進めた後で、要件を満たしていないと分かると、資金計画が大きく崩れます。控除を使えるかどうかは手取り額に直結するため、不安が残る場合は税務署や税理士に確認しながら進めるほうが確実です。
3000万円特別控除を正しく使うために
3000万円特別控除は、マイホームを売却する人にとって税負担を抑えやすい制度です。譲渡所得から最高3000万円を差し引けるため、売却益が出ても課税対象が残らないケースがあります。
一方で、住んでいた家であること、期限内に売ること、特別な関係者へ売らないこと、過去に同じ特例を使っていないこと、確定申告を行うことなど、確認すべき点は少なくありません。住宅ローン控除や相続空き家の特例との関係も、売却する人の状況によって判断が変わります。
売却価格だけで判断せず、譲渡所得の計算、必要書類、使える特例の組み合わせを早めに整理しておくことが、売却後の手取りを守る近道になります。
